こんにちは。中小企業専門ファイナンシャルライターの白石 美咲です。
いつもはファクタリングのノウハウや専門的な解説をお届けしていますが、今日は少しだけ、私自身の話をさせてください。
「なぜ、安定したファクタリング会社の審査マネージャーという職を辞してまで、文章を書く道を選んだのですか?」
独立してから、ありがたいことに多くの方にそう尋ねていただく機会がありました。そのたびに、私は審査担当として過ごした日々と、そこで出会ったある経営者様の顔を思い出します。
これは、私が審査部門のデスクを離れ、PCの前に座って言葉を紡ぐことを決意した、私の「原点」の物語です。
数字の裏にある、経営者の「体温」
ファクタリング会社の審査部門。そこは、企業の未来を左右する数字が、静かに行き交う場所でした。売掛先の信用力、債権の安定性、利用者の財務状況…。私たちは、それらを客観的なデータに基づいて分析し、買い取りの可否を判断します。
数千件以上の審査に携わる中で、私はいつしか「この決算書は健全だ」「この債権はリスクが高い」と、瞬時に判断できるスキルを身につけていました。それはプロとして当然のことであり、誇りでもありました。
しかし、数字と向き合う日々の中で、私が決して忘れなかったのは、その数字の裏には必ず、必死に会社を支える経営者の「体温」があるという事実です。
営業担当だった頃、私は多くの経営者様と直接お会いし、資金繰りの切実な悩みを伺ってきました。「この支払いを乗り切れば、会社は大丈夫なんです」「従業員の給料だけは、絶対に遅らせるわけにはいかない」。そう語る彼らの真剣な眼差しを、私は決して忘れることができませんでした。
だからこそ、審査のデスクに座っていても、私の心は常に現場と共にありました。なんとかしてこの企業を救う道はないか。承認できるロジックを組み立てられないか。ルールと現実の狭間で、私はいつも葛藤していました。
忘れられない、ある夏の日の「否決」
そんな日々の中で、私の心に今も深く突き刺さっている出来事があります。
それは、ある夏の日のことでした。従業員10名ほどの、地方の小さな金属加工会社からの申し込みでした。創業30年、親子二代で技術を守り続けている、実直な会社です。
大手メーカーから大型の新規受注が決まり、会社にとっては大きな飛躍のチャンスでした。しかし、そのための材料費や人件費が先行して発生し、資金繰りが一時的に逼迫。支払期日までの「つなぎ資金」として、ファクタリングを申し込まれたのです。
決算書は決して華やかではありませんでしたが、堅実な経営ぶりがうかがえました。何より、私はその案件に「未来」を感じていました。この受注を成功させれば、この会社は間違いなく成長軌道に乗る。そう確信していました。
しかし、審査は無情でした。売掛先である大手メーカーは、新規取引であったため、私たちの社内データベースでの与信評価が標準スコアにわずかに届かなかったのです。
「白石さん、この案件は難しい。前例がない」
上司の言葉は、冷静で、そして正論でした。私は食い下がりました。事業計画の妥当性、社長の人柄、技術力の高さ。数字には表れない「定性情報」を必死に訴えましたが、組織のルールを覆すことはできませんでした。
受話器越しに「申し訳ありません」と伝える私の声は、震えていたかもしれません。電話の向こうで、社長が静かに「…そうですか。ありがとうございました」とだけおっしゃったのが、今でも耳に残っています。
その3ヶ月後、風の噂で、その会社が資金ショートを起こし、事業を停止したことを知りました。
もちろん、原因はファクタリングを否決したことだけではないでしょう。しかし、私の心には、鉛のような重い後悔がのしかかりました。
「あと一歩だったのに」
あの時、もし社長が、もう少し早くファクタリングの存在を知っていたら?
もし、審査で重視されるポイントを理解し、事前に準備ができていたら?
もし、他の資金調達の選択肢も、同時に検討できていたら…?
私たちが「否決」という判断を下す、そのずっと手前で、打てる手はたくさんあったはずなのです。足りなかったのは、お金だけではない。本当に必要とされている人に、正しい「情報」が届いていなかったのではないか。
その思いが、私の中で日に日に大きくなっていきました。
審査担当者から、情報の発信者へ
私は、企業の将来を左右する「最後の砦」にいることに、誇りを持っていました。しかし、その砦の中からでは、救えない命があることを知ってしまったのです。
私がいるべき場所は、砦の中ではない。もっと手前で、経営者が道に迷わないように、正しい地図とコンパスを手渡す場所ではないか。
ファクタリングのメリットだけでなく、デメリットも。審査で通るケースだけでなく、落ちてしまうケースも。その全てを、かつて審査をしていた人間の言葉で、正直に、分かりやすく伝えることができれば、救える企業はもっと増えるはずだ。
それが、私が10年以上勤めた会社を辞め、ファイナンシャルライターとして独立した理由です。
「ファクタリングという選択肢を、すべての経営者の力に。」
これは、私の心からの叫びであり、このブログを通じて成し遂げたいと願う、私の使命です。審査担当者として救えなかった、あの夏の日の後悔を、未来への希望に変えるために。私はこれからも、経営者の皆様に寄り添い、言葉を紡ぎ続けていきたいと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。